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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)26号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲第二号証、第三号証の一、二によれば、本願考案は、転写マーク等として用いる転写シートに関するものであつて(昭和五九年六月二一日付け手続補正書第二頁第一四行、第一五行)、容易に保護膜上に所望の文字、模様等の画線を箔や印刷で形成でき、転写マークの生産性を向上させ、製造機械の簡易化を図り、また転写後画線構成層を保護し、かつ印刷層や箔の剥げ落ちや変色を防止することができる転写シートを提供すること(同第四頁第五行ないし第一一行)を技術的課題(目的)とし、実用新案登録請求の範囲第一項(本願考案の要旨)記載の構成を採用し(昭和六〇年一〇月一二日付け手続補正書第六枚目第二行ないし第一二行)、この構成により、(a) 保護膜上に各種の印刷方式で模様、文字等の画線構成層を印刷することができ、印刷機械の簡易化を図り、生産性を向上させることができ、(b) メタリツクな感じを呈するマーク等の生産が容易であり、(c) 画線構成層の色彩、形状などを種々変更することにより各種の転写シートを形成でき、(d) 保護膜の材料を適宜選択することにより、転写後画線構成層を被覆保護させることができ、その変色等を防止できる(昭和五九年六月二一日付け手続補正書第九頁第八行ないし第一〇頁第七行、昭和六〇年一〇月一二日付け手続補正書第四枚目第七行ないし第一五行)という作用効果を奏するものであることが認められる。

2 第一引用例及び第二引用例に審決認定の技術内容が記載されていること、本願考案と第一引用例記載のものとの一致点及び相違点が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。

原告は、本願考案の箔押層と第二引用例記載のもののアルミ膜、本願考案のシートフイルム層と第二引用例記載のものの透明膜との技術内容が相違することを理由に審決の相違点の判断は誤りである旨主張する。

そこで、本願考案の要旨とする箔押層及びシートフイルムについて検討すると、前掲甲第二号証、及び第三号証の一、二によれば、本願考案の実用新案登録請求の範囲第一項には、「箔押層」、「シートフイルム」とのみ規定され、その性状等については、これを限定する何らの記載も存しないこと、また、考案の詳細な説明には、「箔押層(4)は、第3図に示すように例えばポリエステルフイルムをベース(7)とし、これにアルミ蒸着を行い、接着層を設けたものを箔(8)として用い」(昭和五九年六月二一日付け手続補正書第七頁第七行ないし第一〇行)と記載されているにとどまり、ほかにその性状等についての説明は存しないことが認められる。

したがつて、本願考案の要旨とする箔押層及びシートフイルムはその性状等を特定のものに限定されないというべきである。

一方、成立に争いのない甲第五号証によれば、第二引用例記載のものの透明膜は、薄基盤、剥離膜の上面に色彩印刷された文字、図形、模様の上面に無色又は黄色の透明インキにて形成されたものであり、アルミ蒸着膜は、その全面上に一様にアルミ被膜を真空蒸着したものであることが認められ、この透明膜が本願考案のシートフイルムに、アルミ蒸着膜が本願考案の箔押層に含まれることは明らかである。

原告は、本願考案の箔押層は、箔を保護膜上に重合させて加熱された版を押し当てることにより形成された層であり、「箔押」とは、金や銀の箔を器物その他のものの表面に貼りつけることを意味し、したがつて、本願考案の箔押層は第二引用例記載のもののアルミ蒸着膜とはその構成を全く異にし、かつ、作用効果も異なる旨主張する。

しかしながら、本願考案の箔押層の構成が原告主張のものに限定されないことは前述のとおりであり、しかも、本願明細書の考案の詳細な説明に記載された箔押層の例は、第二引用例記載のもののアルミ蒸着膜と同一であるから、両者の間に構成及び作用効果上の差異がないことは明らかであつて、原告の右主張は理由がない。

また、原告は、本願考案のシートフイルム層は、シートフイルムを他の層と重合させることによつて形成したものであり、右にいう「シート」とは、長さ及び幅に比較して厚さの極めて小さい形状のプラスチツクを、「フイルム」とは、一般にシートの薄いものをいい、本願考案のシートフイルムとは、このように層形成前にシートフイルムを形成したものを層形成材料として用いることを意味するから、第二引用例記載のものとはその技術内容を異にする旨主張する。

しかしながら、本願考案のシートフイルムの性状等に限定のないことは前述のとおりであり、前掲甲第五号証によれば、第二引用例記載のものの透明膜は、合成樹脂等をベースに用いた印刷インキにより形成された薄い層であることが認められるから、シートフイルムの定義が原告主張のとおりであるとしても右透明膜が本願考案のシートフイルムに含まれることは明らかであつて、原告の右主張は理由がない。

したがつて、第一引用例記載のものにおいて、第二引用例記載のものの画線構成層を採用し、本願考案の相違点にかかる構成を得ることは当業者がきわめて容易に想到することができたものというべきであるから、審決の相違点に関する判断には誤りはない。

3 次に、本願考案の奏する作用効果は前記1認定のとおりである。

原告は、審決は本願考案の奏する顕著な作用効果を看過した旨主張する。

しかしながら、(a) 保護膜上に各種の印刷方式で模様、文字等の画線構成層を印刷することができ、印刷機械の簡易化を図り、生産性を向上させることができ、(b) メタリツクな感じを呈するマーク等の生産が容易であり、(c) 画線構成層の色彩、形状などを種々変更することにより各種の転写シートを形成でき、(d) 保護膜の材料を適宜選択することにより、転写後画線構成層を被覆保護させることができ、その変色等を防止できるという作用効果のうち、メタリツクな感じを呈するとの点は第二引用例記載のものの前記構成が奏することができるものであり、その余の作用効果も第一引用例記載のものに第二引用例記載のものの前記構成を適用することにより当業者が容易に予測できる程度のものにすぎない。

原告は、右のほか、本願考案は、(ロ) 複雑で多量の情報を盛り込むことができる、(ハ) 転写シートを伸縮性を有するものとすることができる、(ニ) 転写シートを転写した部分の密封性を増すことができる、(ホ) 表面に形成された印刷層により多量の情報を盛り込むことができるなどの作用効果を奏する旨主張する。

しかしながら、前掲甲第二号証、及び第三号証の一、二によれば、右(ロ)、(ハ)の点は本願明細書には記載がないことが認められ、本願考案の要旨とする構成から当然に奏するものともいえないから、これをもつて本願考案の奏する作用効果ということはできない。また、(ニ)の点は、第二引用例記載のものの透明膜の構成により、(ホ)の点は、その画線構成層の構成により奏することができる作用効果であるから、これをもつて格別のものということはできない。

したがつて、審決に本願考案の顕著な作用効果を看過した誤りは存しない。

4 以上のとおりであつて、相違点についての審決の判断、及び作用効果についての審決の認定に誤りはないから、審決に原告主張の違法は存しない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。

〔編注〕本願考案の要旨は左のとおりである。

剥離シートと、

前記剥離シートの一表面に形成された保護膜と、

前記保護膜の上に、形成された、箔押層及びシートフイルムのうち少なくとも一方と、印刷層との組合わせから成る転写すべき模様、文字等を形成するために形成された、画線構成層と、

前記画線構成層の上に形成された転写用接着剤層とから成り、

より下層の印刷層、箔押層又はシートフイルムが保護膜を通して透視し得るように構成されたことを特徴とする、転写シート。

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